作者が喜寿を過ぎてからの作品らしいが、重く深く緻密な話だった。重厚さに耐えきれず停滞した時もあったが、やっと読み終えた。昨今の文庫本なら上中下の三巻になりそうな分量。昭和37年に発表された作品で、私には言葉が難しかった。為政者秀吉と芸術顧問利休の縺れ合った関係はスリリングで面白く、なぜ利休は死ななければならなかったのかもうなずけた。秀吉も利休も互いを必要としながらも憎しみあい、愛憎のもつれ具合か微妙で切なかった。利休の暮らす堺は、当時の国際都市だった。幼いうちにヨーロッパへ売られていった娘おちかと、利休の息子の紀三郎の話はこの時代を語るサイドストーリーとして心に残った。丁寧な描写で当時のにぎやかな堺の街、南蛮文化の香りが目の前に立ち上る。作者は100歳まで生きた人らしいから、これを書いた頃はまだまだお元気だったのだろう。とはいえ、作品の重さを考えると相当のスタミナの持ち主だったにちがいない。初めて女性作家の歴史物を読んだ。秀吉の正妻ねねが嫡男を生んだ淀君に対して婦徳を持たざるえないと書いた部分は新鮮だったし、濃厚でぞっとした。女性だから云々は流行らないが、じっとりとした女性の性が海の深層海流のように、底で脈々と流れている気がした。