佐藤勝「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」新潮社(2005年)

これもロシア関連本として読む。四半世紀前に、北方領土返還にむけて奔走していた鈴木宗男さんと佐藤勝さんがよくわからない容疑で捕まった話。そして当時、外務省でロシアの情報分析をしていた佐藤勝氏が、鈴木宗男氏をターゲットにする国策捜査について語る話でもある。国策捜査とは国の偉いヒトが、ターゲットに定めたヒトを検察の力で否応なく社会的に葬りさることらしい。国が本気を出せば、誰だって消せるということだ。おお怖い。この事件を機に時代は大きく転換していったと著者はいう。都市の利益を辺境の地方にまで平等に分配する時代から、規制を取り払い皆が競争して富を獲得して、大きな富のおこぼれを貧しい者が拾う時代へと移っていった。その意味も今ならよく分かる。日本が3流へと落ち始めたのも、プーチンが大統領になったのもちょうどこの頃だ。そして、北方領土は未だ返還されないまま、現在に至り、ロシアは戦争を始めた。佐藤さんの生真面目な文章は静かな怒りの炎で一杯だった。彼のキリスト教関係の本を読んだことがあったが、とても面白かった記憶がある。当時の外務省の記録はあと数年で公開されるはずだ。それで真実が明らかになったら、またこの本の続編を書いてほしい。その時まで日本政府がちゃんと書類を保存していてくれることを切に願う。そして佐藤優さんには今のロシアについても、もっともっと語ってほしいと思う。