岸井ゆきの主演。耳の聞こえないボクサーの話。体重を増やしてトレーニングをして、ほとんどセリフのない役を演じる岸井ゆきの。この役、菜々緒にオファーあっても、彼女はやらないだろうなと思った。それほど、この映画に出る女優さんには覚悟もいる。だが、思ったほど岸井ゆきのはブザイクではなく、清々しい女神感さえ漂っていて、これは彼女の勝利なのだろうと思った。目を澄ませて。そんな、表現するかなあ。でも澄んだ瞳があるから、澄ませてもいいのかしらん。不器用に生きるケイコに、特別な思い入れもなく映画は過ぎていく。皆、それなりに手のひら一杯の不幸を握って生きている。それを嘆いても嘆かなくても、命は続いていき、そう悪くもない天気と、土砂降りの雨と、どんより曇った空を、繰り返す。そんな日常を生きる人間の目を、岸井ゆきのがしていた気がする。不器用な体を全部使って、そういう目を見せてくれた。秀作と言われるのも頷ける。