日野原健司編「北斎 富嶽三十六景」岩波文庫(2019)

非常に読みやすい良書。文庫サイズなので、図版は両開き、そのあとに解説。適量でわかりやすい。北斎富嶽三十六景を全部眺めてみると、北斎の好みや当時の江戸の風俗が塊となって感じられた。富士山の三角形を、桶の円形からのぞいたり、マルや三角と富士を絡ませるのが北斎の好みらしい。現実の景色よりも面白い画面作りを優先している。北斎らしさはそこにあるのだろう。さて、『富士山があるから江戸はこんなに栄えた』と誰かが言っていた。案外正しいかもしれない。富士山にはそれだけの力がある。信仰に近い魅力が。ここに掲載されてある版画の多くが海外にある。どういう流れで異国の美術館や収蔵家の元に辿り着いたのだろう。1番良いものが、我が国にないのは寂しいが、世界中の人に見て貰えるからまぁいいか。アーティストは夭折な人も多いが、北斎は88歳まで生きた。アートする世界は思っている以上に健康に良いのかも。日本はもっとアートしないとね。世界で1番の高齢者の国、ニッポン。ようこそ。