パトリシア・ハイスミス 小倉多加志訳「11の物語」ハヤカワ文庫(1990)

発売当初の頃に読んだ本の再読。この本で思い出せるのは、何とも言えない読後感があったこと。再読して、あーこれこれ、この微妙な読み心地と、再度懐かしく味わった。アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」という映画の原作が、パトリシア・ハイスミスだ。この本は、彼女の11個の短編が集められた作品集。そのうち2個がカタツムリの話。カタツムリが苦手で感受性の強い人は読まない方がいい。ゾクゾクして不安になるヤバイ本である。世界中がきな臭くなってきた2023年。いつ溢れ出してもおかしくない器がとうとう限界を越えた感じ。コロナというトンネルを抜けるとそこは新しい世界。だったはずだが、結局、戦場の景色がまた登場した。戦いはまだ終わる気配はない。そんな中、極東の我が国の船頭たちはといえば、今も宴を止める気配はない。ライフジャケットの枚数が足りないことも、救命ボートには既に船頭たちの仲間で一杯なことも黙っている。ああ、とうとうこんな国になっちゃった。トホホ。諦めてはいけないのだけど、力が湧いて来ない。社会に不安が蔓延し、ここかしこに怒りが満ちている。不気味な時代の到来。今こそパトリシア・ハイスミスの読み時かもしれない。