浅川智恵子(聞き手)坂元志歩「見えないから、気づく」ハヤカワ新書(2023)

著者浅川智恵子さんは中学の時の事故で視力を失った。その人がやがてIBMのフェローとなる話だが、個人的な苦労話はあまり語られていなかった。テクノロジーが世界を変えること、あらゆる人に開かれたアクセシビリティが大切なのだと。スマホが使えるようになって、障害のある人だけでなく、あらゆる人に今まで障壁だったことが解消されてきた。限られた人だけが享受していた事もネット上では広くひらかれている。弊害もあるのだけど、私たちはこの手のひらの端末で生活を変えることがてきた。でも浅川さんが目指す世界にはまだまだ十分ではない。「既得権益」を持っているとは、こういうことなのだなと思った。見えることが普通になっていると、そうでない人のことが分からない。本当に失ってみないと分からない。他者を理解するのは難しい。いろんな人が関わり合って生きるSDGsが目指す多様な社会は、言葉が醸しだす明るくてクリーンなイメージとは異なって、厳しくしんどい社会なのだろう。気がつかないうちに私たちは他者を抑圧し、搾取する側の人間になっていることを改めて認識しないといけない。そう浅川さんに言われているような気がした。今、弱者の怒りは限界を越えているようだ。世界は変化し続ける。私たちも変わり続ける。たとえ辛くても生きるということはこういうことなのだろう。