NHKよるドラ「腐女子、うっかりゲイに告る」

前回の「ゾンビ」以上に目が離せないドラマ。「わた定」やら「昨日何食べた?」よりも実は一番気に入っている。高校生の主人公の安藤純君(金子大地)はゲイ。純君が好きな腐女子が三浦さん(藤野涼子)。この二人が付き合い始めるが、実は純君には、ひとまわり年上の恋人、佐々木さん(谷原章介)がいる。佐々木さんはゲイだが、妻子を持っている。純君は佐々木さんとの関係を続けながら、三浦さんと付き合う。自分も普通の男性として生きる道も歩みたいと考えたりする。そして、とうとうゲイであることがクラスでばれて、純君は教室のベランダから飛び降りる。主役の金子大地君も、藤野涼子ちゃんもとてもいい。ドキドキするほど色っぽい瞬間と、無邪気な高校生の瞬間を交錯させているのがいい。二人の切ない表情と、谷原章介の微妙な大人ぶりがドキドキさせる。ゲイだけど普通に奥さんも子供さんもいる家庭って、結構存在するんだろうなって思ってしまった。「男性相手でしかたたない」純君の悲しみ。BL好きな腐女子ではないのだけど切なく思う。好きだけど、体が反応しないことはあるし。もちろん逆もある。普通に生きられない悲しみはどこまで行っても普通に届かない。普通って何?到達できない世界にあこがれつつ暮らすことは、満ちることのない水がめに水を注ぎ続ける行為に近い。絶望的に果てしない。不毛。しかし、多かれ少なかれ、私たちはそんな不毛な世界を生きているのかもしれない。

TBS「わたし、定時で帰ります」

パーフェクトワールド」が夢物語なのに対して、こちらはリアルなお仕事ドラマ。「いまどきのお話」は興味深い。吉高由里子は相変わらず肩の力が抜けていていい感じ。今回は定時で帰る広告業界の中堅社員の役どころ。元カレが向井理君で、今の彼が中丸君。そろそろ結婚という微妙なお年頃。「獣になれない」のガッキーみたいに、仕事のできる女性だけど、自分を擦り減らすことがないよう定時に帰っている。理想の働き方。ドラマでは令和元年の職場で実際起きていそうな小ネタが満載。あるある・・・と思いながら、自分ならどうするだろうと思って見ているのかな。「今の若い人は」という言葉は、永遠なのかもしれない。自分だって言われてきたし、今の人も、きっとそのうち若い誰かに向かって言うのだと思う。職場の世代間格差は仕方ない。働き方改革の名のもとに、皆が健康で文化的な暮らしができればいいのだが、労働時間を減らした高コストの国、日本で生き残るには、やはりお金が今まで以上に大切になるのではないだろうか。弱っちい日本人の代わりにバリバリ働いてくれている外国人労働者さんたち。その子どもたちが弱体化した日本人の子どもたちからに変わって、高収入の仕事をどんどん奪っていく日はそんなに遠くない気がする。私たちは働き方以外にも改革していかないといけないのかもしれないね。まあ、そのあたりはこのドラマでは出てこないのだけど。

日本TV「パーフェクトワールド」

松坂桃李君が脊髄損傷で下半身にマヒを持つ青年を演じている。恋人の山本美月ちゃんとは高校の同級生。再会して恋に落ちるというラブストーリー。車椅子に乗る桃李君は切ない顔をよくする。男前の車椅子の青年は、頑張りすぎず、時には毒も吐いて、生活の不便さにも関わらず前向きに暮らしている風だ。そこに中村ゆり演じる美人看護師さんと、山本美月ちゃんの幼馴じみ瀬戸康史君が絡む。全員8頭身の美形の男女が奏でるストーリーはどこまでも美しいなあ。障害を持つということ、障害を抱えて働くということ、障害者とつきあうこと、結婚することなど、簡単には答えが出ない問題がちりばめられている。パーフェクトワールド。誰もが心地よく調和した世界は果たして存在するのだろうか。予告を見ていると心が折れそうな局面がまだまだ続きそうだ。美しい恋物語が私たちに勇気を与えてくれるのか。不完全な私たちがパーフェクトワールドの住人になれると信じて、来週もみるとしよう。いやあ、もはや祈りだ。

マコンデ美術館 in 三重県 伊勢二見

たまたま二見町の夫婦岩を見に来たら、ここにマコンデ美術館があることを思い出した。一緒に来た友人たちと伊勢まで来たご縁でマコンデ美術館再訪となった。前回から来たときから20年余り。作品群の素晴らしさにまた息をのんだ。友人の話では現地タンザニアにはこれだけの作品なもう存在しないらしい。彫り師たちは観光客相手の安価な作品ばかり作るようになってしまったらしい。黒檀の滑らかな肌と独特なフォルム。シェタニと呼ばれる精霊やら、ウジャマーという家族のような集団やら、動物やら骸骨やら。どれもこれも私の常識を越えるユニークさと力強さで迫ってくる。特にお気に入りなのは、性愛をテーマにした作品群。ちょっとエロチックでにやにやしてしまうが、色っぽいだけじゃない。悲しみも喜びも強さも残酷さもあって、これぞ生命そのもの。卑俗で高尚なる瞬間をとらえた見事な作品。ほかにはティンガティンガもあり、こちらも素敵。何時間でも見ていられる気がした。館長水野さんは受付して下さった方かな?彼の素晴らしいコレクションに感謝しつつ、多くの人にもっと見てもらいたいなあと切に願う。

橋本治「桃尻娘」講談社文庫 初版1981年

この題名の艶めかしさで当時は読まなかった。でも橋本治さんがお亡くなりになって手に取ってみた。面白くて、するする読めた。私の好み。もっと早く知っていればよかった。最近そういうことが多い。若いころは何をしていたのだろう。今から思うとつまらないことに翻弄されていたのかもしれない。これも世の常。死への距離が縮んできて初めてあーしておけばよかったと思うのだ。最初から最終目的地は分かってはいるのだが、肉体の衰えが来てやっと実感がわく。肉体とは対称的に、精神は大して成長しない。桃尻娘の榊原玲奈の心の声と大差はない。今でいうJKの心境をその言葉で綴ったこの小説。書いたのが中年の橋本治氏だった。文体とはふしぎなもの。文体がこれだと軽い。どうしようもない軽快さに走りながら感じるのだ、深い味わいを。ここで展開されている日常はどんな日常にも通じる。高校生の少年少女の心は、初老の心におきている真実と矛盾と、なぜか見事に一致する。桃尻娘にシビレた。特にお気に入りは温州蜜柑娘かな。今からではもう遅いのだけど、目的地に着くまでゆっくりやろうと思う。明日到着するかもしれないけれど。それはそれでいい。

平井堅 Ken's Bar 三重県営サンアリーナ 

はじめて平井堅のコンサートに来た。今も変わらず長身で細身の彼が高い椅子に腰掛けながら歌うスタイル。会場の前の方は結婚式の披露宴のようなテーブル席。お酒を飲みながら聞けるらしい。平井堅47歳。色香が漂うね。場内はもちろん女性客がほとんど。前半はしっとり系。後半はちょっとパワフル。ほぼ3時間の熱唱に酔う。後半のリクエストタイムでは、会場の観客と話をしながら、オリジナル曲のリクエストにこたえるという趣向。サービス満点。トークも面白い。失礼にならないギリギリのところまではいっていく。さすがぁ。リクエスト2番目の、伊勢志摩サミットのLIFEがよかったなあ。それにしても、歌がうまい。どんどんうまくなっているんじゃないかと。艶っぽくて前より好きになったかも。贅沢な時間だった。上等な布団に入ったような心地の良さ。平成最後でにぎわう伊勢で、平井堅の歌声を聴けるめぐり合わせのありがたさに感謝である。これぞお伊勢さんのおかけである。ありがたや~。

 

 

日本史を読む 丸谷才一&山崎正和 中央公論文庫(1998年)

知的快楽本。背中のツボを押してもらったような心地良さが続く。博覧強記の二人が語る日本史話が実に面白くておもしろくて。こういう歴史話を少しでも聞かせてもらっていたら、もっと歴史好きになっていたかもしれない。自分の歴史教養の欠如を人のせいにするほど歴史オンチにも面白い。お話は古代から戦後まで何でも知っている二人の知的巨人が楽しそうに、にやにやしながら話している。額田大王の大海人皇子のあの歌の背景やら、白川法皇と璋子の関係や影武者徳川家康に、秀忠の悪口やら。本当に知的な人たちってなんて、かっこいいんだろうなって思いながら、こちらまで口角あげて読んでしまう。知的であることの迫力とはこういう余裕を生むのだろうね。どんなに努力しても足元にも及ばないけど、そういう人を見上げるようにして、これからは本を読んでいきたい。