NHK「麒麟がくる」

沢尻エリカ様のおかげで始まる前から話題の大河。前作「いだてん」の低迷もあって、NHKの主な視聴者である高齢者の皆さんが待ってましたと見ているのか、視聴率はいいみたいね。主役の長谷川博己もだが、好きな役者さんがたくさん出ていてる。モックンもそうだし、染谷君の信長も楽しみだ。エリカ様の代役川口春奈もいい。エリカ様の帰蝶も見たかったが、もう終わった話だね。明智光秀が主人公というのも珍しいし、何度見ても面白い戦国時代、期待は募った。だが、それなのに、それなのに。なぜか肩透かし感がある。なんだか気持ちが悪いのだ。どうもカメラのせいだ。ここは俳優さんの演技が見たい!というところでなせかカメラはひいている。顔が見えない。中途半端な画格の絵が続く。4K放送、8K放送のため?小さな画面で見るものにはストレスだ。その上、海老蔵のナレーション。顔出しなら文句ないが、滑舌の悪い海老蔵をナレーションになぜ使う。中井貴一にして欲しいよ。と文句を言いながらも見てしまうのが大河。喧嘩できるほど仲の良い夫婦みたいなものだね。まあ、今どきはさっさと別れる夫婦も多いけどね。

藤沢周平「冤罪」(昭和57年初版)

藤沢周平の初期の短編集。読み始めると、するすると江戸時代にタイムスリップできる。「武家物」と呼ばれる江戸時代のあまり石高が高くない武士の話である。いわゆる江戸時代のサラリーマンの話。筋立てがどれも面白い。滑らかな語り口は、美味しいお酒のように、しっとりと心に染みていく。時代小説くらいの距離がちょうどよいのかもしれない。今どきの話だと切実すぎたり、リアリティーが気になったり、すっぽり物語世界に没入できないかもしれない。江戸の頃も、今の時代と同じように人は悩んで楽しんで恋して狂って生きていた。今より寿命も短かったし、生死は身近にあったはず。武家にはこう生きるべきという規範があり、潔さを何より大事にする社会だった。残念ながら今の私たちが潔く死ぬのは難しい。今すぐ死にたくはないが、長生きもしたくない。健康は日に日に目減りするし、お金はもはや稼げない。国は自分でなんとかしろというし。身寄りもないし、いても頼って嫌われたくない。長生きリスクは深刻だ。美しい日本の風景や慎ましい生きざまが昔の日本にはあったと勘違いしたいのも、そんな心のなせるわざかもね。過去は何でも美しくする。だから時代小説がいいのかもしれない。

日テレ「シロでもクロでもない世界でパンダは笑う。」

ミスパンダが飼育員さんと世の中のグレーゾーンにシロクロつけに行くお話。主演は清野菜名。ミスパンダという神出鬼没な謎の変装パンダの女性を演じている。これがカッコいい。アクション女優さんなんて久しぶりかも。飼育員は横浜流星君。人気の若手俳優。日曜日の夜のドラマはちょっと異彩を放っていていい。そう、世の中は閉塞している。ミスパンダみたいな存在を求めている。抑圧されたエネルギーは放出先が見つけられず、危うい暴力や戦いに人はひかれていくのかも。極右勢力の台頭も、リベラルの無力も、必然なのかものしれないね。正義の先に平和があるとずっと思ってきたけれど。正義は思いのほか多様だったのよ。最近ではスマホで世界中が繋がってしまい、あちこちで正義と正義が衝突している。豊かさという絶対数の足りないケーキを巡って人は血眼になっている。ああ、それにしてもビリーアイリッシュのbad guyが耳から離れない。不穏な世界を避けるすべを見つけられず、私たちは流されていくのかなあ。

日テレ「知らなくていいコト」

吉高由里子が今度は週刊誌の記者を演じるドラマ。脚本は大石静。期待通り面白い。吉高由里子演じるケイトは職場に元カレと今のカレが一緒にいる。特殊だと同僚に言われる。イマドキはそんなに珍しくはないのかも。ケイトの母親は秋吉久美子。字幕翻訳者でシングルマザー。母と娘のふたりきりの家族だが、初回で母が突然亡くなる。臨終時からケイトの父親が誰なのかという謎が浮上。キアヌ?一方ではケイトの取材先のネタで話は進む。2回目はDNA婚カツの話が絡む。そして吉高由里子はかわいい。喜んだり怒ったり落ち込んだり泣いたり。動けば動くほど引き付けられる。元カレのカメラマンが柄本佑。今、売れっ子だね。今の彼が重岡大毅多部未華子の次は吉高由里子の彼だ。出演者で一番好きなのは編集部のデスク、山内圭哉。「獣になれない」に続き、パワハラ気味上司役。いい役者さんだし、意外に男前。謎解きと面白いし、吉高由里子のアラサーのリアリティーも上手い具合に混ざっている。さすが大石静先生。今季の医療モノじゃないドラマは貴重。病院も白衣ももういいかな。

フォードVSフェラーリ Ford v Ferrari (2019)

ル・マン、カーレースのお話。アメリカフォードが倒産のどん底からイタリアフェラーリに勝つという話だが、実際に戦うのは、フェラーリというより、同じフォードの上層部。単純なストーリーだがなかなか楽しい。カーレースの世界を私はよく知らない。レースシーンの信憑性は不明。ただ終わって見れば、車好きな男たちが大好きになっていた。男の人はいくつになってもブーブーが好きな男の子なんだなあ。マットデーモンは肉厚のアメリカのおじさんになっていたけど、素敵だった。彼が乗るクルマがまたカッコ良かった。クリスチャンベイルは車バカの天才。偏屈なんだけどかわいいイギリス男を好演。ずっと粗末なホーローカップで紅茶を飲む。映画全体の色調がほんのりしてて郷愁を誘った。アメリカっていいな。そんなことを久しぶりに感じた。もう四半世紀も忘れていた何かを思い出した。マットデーモンとクリスチャンベイルのせいか?夕日のドライブに行きたいな。カッコいい車にも乗りたいな。カーレースを見に行きたくなってしまった。

主戦場(2019)

友人が面白かったというので見てみた。いやあ、面白かった。あっという間に2時間過ぎた。主戦場というタイトルだが、これは慰安婦問題を巡る戦い、バトルフィールドのお話。アメリカの映画なのである。慰安婦問題は途中から訳が分からなくなった。歴史の中で真実は変幻自在。テレビの言うこともあてにならないし。なぜアメリカで慰安婦像が次々と設置されるようになったのかとか、愛知県トリエンナーレとか。誰かに絡まった糸を解きほぐして欲しいと思っていたのだ。こういうことだったんだ。映画は早い展開でさまざまな人のインタビューで繋いでいく。そのスピードに最初あたふたした。でもその疾走感が良かった。私たちの乗る船はとんでもない船長たちが舵をとっていることもよくわかったし。この映画がすべて正解ではないが、それでもこの映画が伝えたいことは私の知りたいことでもあった。船が沈没するならまだしも、勝手な人殺しに加担するのは本当に嫌だ。船から降りるか、船長達を首にするか。今は後者の方が難しいのか。

小川眞「キノコの教え」岩波新書(2012年)

キノコは低カロリー。なので毎日のように食べている。キノコが菌類だとはなんとなく知っていたが、植物の中に菌類は含まれていないとは知らなかった。無知の極まり。スーパーで野菜の隣に並んでいても出自は全然違うのだ。こんなに年をとっても知らないことが山ほどある。だから一生勉強てすな。さて、この本はキノコの先生が菌類の進化から毒キノコの話や人類の共生に至るまで、平易に語っている。木は菌類と仲良くすることで生きているということ、炭が菌類を助け木を助けることなど、チコちゃんも知っているかどうか。そして2011年の東北の震災。海岸の松林は消え、キノコはセシウムを吸収するようになった。地球の変化をキノコたちは私たち以上に敏感に感じているらしい。菌類は動物と同じように誰かの栄養をもらわないと生きていけない。でも動物と違うのは相手と共生していく。キノコの先生の言う通り、私たちもこれからは菌類的に共生の道を歩むべきなのだと思う。たとえ、簡単ではなくても、もう殺しあっている場合ではない。お互いを必要とする関係を多くの人と結ぶこと。キノコの菌糸が絡まるようにね。