小松左京「復活の日」角川文庫(1975年初版)

映画も話題になった。私も古い書棚から引っ張り出してきて読んだ。よくできた話で面白かった。コロナ禍で都市封鎖されていく時期に読めば、状況が重なって見えただろう。作者小松左京氏がこの小説を書いたのは昭和39年。東京オリンピックの年だというのも皮肉なめぐりあわせだね。作者が科学者の独白の中で語る、当時の世界の状況に対する反省や批判は、そのまま私たちの今の状況にも当てはまる。衝撃的、だって半世紀以上たっても何も変わってないのだから。人間の敵はウイルスなのに、人間同士の憎悪や復讐の連鎖を断ち切ることはできていないだから。知力を持って普遍的真理に近づくことが哲学だとすれば、確かに哲学は無力のままなのかもしれない。絶望の中、唯一生き残った南極の人たちが、ひとつの「南極人」として立ち上がる。遠い話になっちゃったがラグビーのワンチーム的なね。復活の日は遠いとしながらも希望に満ちて小説は終わる。いやあ満たされた。小松左京氏の博識ぶりと壮大な想像の翼に。前向きな熱い思いに。新型コロナの状況は好転しないまま、すっかり慣れてしまった私たち。生きるためには経済をまわせというけれど、何か根本的なところが違う気がする。低きに安きに流れる人間の弱さのせいだけど、そのまま流されているのはつまらない。少しでも個人が底上げして、世界を変えていくしかない気がする。たとえ砂上の楼閣でもね。無駄な努力だとしても、戦わないとね。戦わない奴らが笑っていても。ファイト!ちゃんと生きよう。それが今できる最良のことでありますように。