小川洋子「博士の愛した数式」新潮文庫(平成17年)

先日NHK-BSで同名の映画を見たので読んだ。映画は主人公が深津絵里で、博士が寺尾聰。小説の雰囲気がそのまま映画になっていたし、配役もよかった。映画では大人になったルート吉岡秀隆が教壇で数学にまつわる話をするところから始まるが、小説では最後にルートが数学の先生になって終わる。80分しか記憶が持たない数学者とシングルマザーの家政婦とその息子という、不思議な関係の三人が、一生懸命互いを慈しむ話。すぐに記憶を失ってしまう博士は記憶を積み重ねることが出来ない。だけど、なぜかあふれんばかりの愛情を家政婦の息子ルートに注ぎ続ける。子どもは無限の愛情を受ける権利があるといわんばかりに。博士の不器用さがこの関係の肝でもあり、彼の病が3人の関係を重くさせすぎない。博士の記憶は阪神タイガースの江夏で止まっている。背番号は28。完全数の江夏は天才左腕で孤高の人でもあった。考えてみれば、プロ野球は数字の世界だ。数学者が野球好きというのもうなずける。第一回本屋大賞でベストセラーだったらしい。組み合わせの妙と、描かれた世界の暖かさが、ギスギスしがちな毎日のゆるめてくれる。さて、プロ野球は開幕。春はデーゲーム、夏はナイターを見て過ごす日常が、早くマスクなしでできますように。祈りは続くよ。どこまでも。