作家遠藤周作はクリスチャンで有名だ。この本は、戦時中、九州の大学の医学部で行われた捕虜人体実験事件をもとにした小説。重苦しい話だが、引き込まれて読んでしまった。戦後80年近くたった今では想像できないが、戦後10年や20年程度だと、戦争を体験した人が身近にたくさんいた。あそこのお店のおじさんも、ここのお店の大将も、戦争の時には、人を殺していたのだという事実。そんな影を抱えながら皆、平気な顔をして、他愛のない日常を送っていた。戦争は人間を残酷凶暴にする。怖い怖い。しかし人間は良心の呵責も状況次第で忘れてしまえる。忘れないと生きていけないのだ。あの時代なら私も間違いなく黒い海に飲み込まれてた。あの時代じゃなくても、今だって、たやすく黒い海に飲み込まれている。良心はどうしてこんなに弱いのだろう。時折、心に芽生える「良心もどき」も、神が怖いのではない、あとで降りかかってくる因果が怖いだけだ。意気地のない良心が今日も朝の電車に揺られて、元気よく「おはようございます」と言っている。それも1番摩擦がないからだ。生きていく秘訣は思考停止なのか。「ただし摩擦はゼロと考える」。こういうの物理の問題にあったなあ。