平成30年大相撲初場所11日目 両国国技館

日本人と生まれたからには一度はお相撲をナマで見たいと思っていた。最近相撲に夢中な友人のおかげで、やっと相撲デビューがかなった。知らなかったが、国技館入口のもぎりの男性も館内で働く人もみんな親方衆だという。人気の振分親方、鳴門親方もいる。力士は引退後は国技館で働けるの?ミステリアス相撲協会。知らないことはまだあった。国技館は朝8時に開場。朝から夕方6時まで国技館で遊べる。地下に行けば300円でちゃんこも食べられる。国技館名物の焼き鳥も美味しい。国技館で焼いているらしく冷えてもイケる。人気力士の名前のついたお弁当もあるし、2階にはソフトクリームやパンケーキもある。午後2時半。国技館横で力士を見る。三役以上は地下の駐車場から会場入りするらしいが、それ以下は、国技館の横道を歩いて入場してくる。そこに張り付いて力士に声をかけるのが、「入り待ち」である。そうこうしているうちに幕内土俵入り。化粧まわしをつけたお相撲さんが土俵をぐるりと囲む。力士の輝くような体つきは美しくて壮観。続いて横綱土俵入り。今回は鶴竜ひとりで寂しい場所だが、さすが横綱、かっちょいい。白鵬稀勢の里を含め、10人も休場している場所だが、幕内の取り組みはそれでも楽しい。今回は結びに全勝の鶴竜玉鷲に負けて大盛り上がり。座布団が飛ぶ飛ぶ。最後は弓取り式。初のお相撲観戦が終わる。国技館は収容人数のせいか、両国駅にも総武線にも混乱はない。夕方6時に終わる大相撲は、老若男女楽しめるエンターテイメント。問題山積の相撲界だが、いついつまでも皆を楽しませて欲しいものである。高齢大国ニッポンの大事な娯楽として。

TBS 「アンナチュラル」

石原さとみは凄いなあ。彼女が出ているドラマはなぜだか見てしまう。華があるというか、演技がうまいというか、役柄にスポッとはまってドラマを引っ張るというか。今回は解剖医。両親が練炭で無理心中し、彼女だけが生き残ったという設定だ。「99.9刑事専門弁護士」の松本潤の設定と似ている。主人公は頭脳明晰な専門職。一見、脳天気に明るいのだが、過去が深刻、時々フッと闇を見せる。石原さとみの演じるミコトの同僚が市川実日子シンゴジラだね。窪田正孝は弱そうだが裏がある。日曜美術館井浦新は、暴力的な変人。上司は孤独のグルメ松重豊。脚本が「逃げ恥」の野木亜紀子。豪華なドラマである。99.9もそうだが、世間の網の目から漏れた者の叫びを拾い上げる救世主的なドラマ。救世主自身も痛みを抱えていて、大上段に構えるわけでも、過剰に微笑むわけでもない。ただただ自分も自分が生きるので精一杯で、あんたのことなんて考えているヒマなんてないんで・・・っていう態度で、埋もれた叫びや忘れ去られた苦しみを掘り起こしていく。今どきはこういう風に善行を行うのが一番スマートなんだろうな。上からでも横からでもなく。へりくだることもなく。

Stronger (2017)

ガールフレンドが出場しているマラソンのゴール地点で、彼女を待っている間に爆破テロに巻き込まれ、両足を失ってしまった男性の話を元にした映画。両足の膝から下を突然失った青年ジェフ。絶望した家族は、職場の人が面会に来ると、『一生働けない息子はどうしたらいいの!』と怒って追い返そうとする。しかし職場の人が保険があるので、サインをくれたらお金が出るよと言うと、家族の態度は一気に変わる。その上、ジェフはテロリストの顔を目撃していた。FBIが来て犯人逮捕。ジェフはテロに屈しない英雄、Boston Strongになってしまう。マスコミはジェフをヒーローとして持ち上げる。一方、事の発端のボストンマラソンに出場していた彼女のエリン。ジェフとの仲は冷めかけていたのだが、自分の応援で足を失ったジェフに同情&愛情が生まれ献身的に尽くす。ジェフはマスコミにちやほやされるほど、心はどんどん荒んでいく。そんな中エリンは妊娠。『子どもなんて持つ事は出来ないよ!』とジェフ。『じゃあ、どうすんのよ!!!』とエリン。ジェフは酒に溺れ、エリンは離れていく・・・。そんなある日転機が訪れる。ジェフは自分を助けてくれた男性に会って話をする。イラク戦争で息子を失ったその男性は、ジェフを救ったことで亡くした息子を救った気持ちになったという。無用な存在だと思っていた自分の存在が誰かの助けとなったと知り、ジェフは立ち直るきっかけをつかむ。いい話である。名演だし。生々しい現実とも向き合いながらも、もがく主人公の姿は心を打つ。それにしてもアメリカは勇敢な者を褒め称える。はからずもそういう立場になってしまった主人公の苦悩はゾッとする。障害を抱えて生きる人間を前にして、応援したいと思う気持ちの手前で、自分がそうならなくて良かったと思う自分がいる。そんなのはバレバレだから、そんなのお構いなしがいいのだが。些細なところでひっかかって身動き出来なくなっている自分も、まもなくそちら側に行く。

NHKドラマ10「女子的生活」

面白い。最近はLGTBが話題にのぼることが本当に多い。このドラマでは志尊淳がトランスジェンダーの主人公ミキこと幹生を演じている。かわいいし、見事に今どきの女子になっている。女装している男性ではない、立ち居振る舞いが完全女子なのだ。女性の格好だが、体は男性、そして好きなのは女の子という、ちょっと複雑な役柄だが、志尊淳がとてもいい。そのミキの高校時代の同級生で同居人の後藤君を演じているのは町田啓太。おバカだが可愛いげのある役で、今回は彼にぴ ったりだ。全四回の三回目はミキが故郷香住で、父と兄に再会する回だった。家族だからこそ許せないこと、家族だから摩擦を生んでしまうこと。家族だから溜まった膿を吐き出し傷つけあってしまうことなどなど。ラストで香住のカニを食べるシーンはそんなややこしさをとりあえず抱えながら生きていくミキと、それを応援する後藤君が良かった。ジーンと来た。このドラマ、ミキの声がハッシュタグ付きで画面に文字が出る。それがセンスいい。田舎で気弱に生きているテキスタイルデザイナーの女の子の微妙な自分に対する態度なども繊細で面白い。久しぶりにガッツリ見てしまったドラマ。おすすめ。

Battle of the sexes (2017)

映画「ララランド」のエマストーンが、テニスのキング夫人を演じている映画である。あの細くて華奢な彼女が、テニス界の女王を演じるために、数㎏分の筋肉をつけたとか。映画では、メイク、服装、すべてが1970年代。エマは見事にキング夫人だった。お話は有名な男女対抗試合のお話。男子テニスプレーヤーで、ハスラーでもあった、55歳のリッグスと、当時女子テニス界の頂点にいた20歳台のキング夫人ことビリージーンとの戦いだ。女性の地位が低くて当たり前の時代。まあ今も意識下ではあまり変わっていないのではあるが。そういう男と女の戦いの裏でビリージーンは美容師マリリンと恋に落ちる。結婚していたビリージーンは男女の垣根を越えてマリリンを愛する。一方献身的にビリージーンを支える夫ラリー。ビリージーンの揺れる心と、それでも、テニスでリッグスを倒すと心に決め、戦いに挑む姿はりりしくてかっこいい。スポーツで頂点を極める人の持つ自信と殺気がみなぎっていて、試合も見ごたえがあった。マリリンとの関係がさら〜っときれいな話で良かったと思う。タイトルは物騒だったか、内容はむしろ明るくてコミカルでよかった。最近のLGBT流行り。殊更深刻ぶるのは好きじゃない。みんな人間だもの。

映画「三月のライオン」(前編・後編)(2017)

長いフライトに任せて、前編・後編を一気に見ることができた。お気に入りの神木隆之介君が主演。繊細だが、切れ味鋭い主人公桐山零を演じる。家族全員を交通事故で失った桐山零は父親の友人の棋士の元で育つ。養父には同じ年頃の姉と弟のふたりの子どもがいて、彼はそのふたりと共に棋士を目指した。姉の香子が有村架純。これはミスキャスト。彼女の甘ったるい顔が、父親であり、棋士である豊川悦司に毒づき、棋士伊藤英明と不倫し、自暴自棄になる娘の役にはどうしても見えない。二階堂ふみなら違和感なかったかもしれない。凄いのは、一瞬誰だか分からないほど太った染谷将太。まんまるの奇人、二海堂になりきっていた。棋士の島田を演じた佐々木蔵之介も良かった。頭をかきむしって心身消耗する姿には鬼気迫るものがあった。そしてトップ棋士宗谷を演じるのが加瀬亮。なんともいえない異様な雰囲気でゾクゾクさせてくれた。伊藤英明のキレキャラも、伊勢谷友介の駄目ブリも、ひなたちゃん演じる清野果那の可憐さも、それぞれが際立っていて前半後半4時間があっという間だった。将棋ブームの昨今、若き天才棋士、藤井4段の姿と神木君の桐山零がかぶる。映画の世界から現実の世界が透けるようだ。将棋を知らない人間にも勝負師たちの身を削るような日常が見えてくる。勝負の世界は年齢など関係なくて、少年から、中年、初老の男性まで、皆、孤独な戦士だ。男たちがとてもかわいい映画だった。

“Ode to My family”, さよならDolores, RIP.

クランベリーズのボーカル、ドロレス・オリオーダンが46歳という若さと突然この世を去った。クランベリーズと言えば90年代。今から思えば私の人生が大きくカーブを切っていた頃だった。クランベリーズを聞くとあの頃を自動的に思い出す。有名なDreamsやら、Zombieも印象的だが、なかでも私はOde to My familyが一番好きだ。ドロレスの「♪トゥルトゥトゥ・・・」という声を聞くだけで切なくなって、「♪My mother, my mother she told me・・・」の頃にはすっかり遠い目になってしまう。どっぷり浸ってしまう。ドロレスのあの声を聞くと今でもあの頃の持て余したエネルギーや、もやもやとした焦燥感が蘇る。期待や不安が湖面の波のように寄せては返していた。あふれ出すことのない湖の水。あのキラキラはもう戻らない。今となっては昔の話。あれからだいぶたって念願かなってアイルランドを旅行した。直前にドロレスのソロアルバムNo Baggageを聞いて行ったことを思い出す。アイルランドの灰色の空と、シャムロックの緑の世界を旅しながら、ドロレスの声を聞いていた。ドロレスの声は強くて、切なくて、純粋で、神々しい。どこまでも伸びやかで、空を駆け巡るような歌声が、私は大好きだった。一番好きだったOde to My familyを今夜聞いて眠りたい。May she rest in peace, Dolores