日本テレビ「家を売るオンナの逆襲」

「私に売れない家はない!」と北川景子が毎回びっくり眼で叫ぶ、好評ドラマの第2弾。水戸黄門並みの明確なストーリー展開。北川景子のコミカルな奇人天才不動産屋がお客の心を叱咤激励して家を売ってハッピーエンド。働き方改革LGBT、ダブル不倫など、今どきのトレンドワード満載の脚本は、大石静。大御所は迷いもなく、バッサバッサと世相を切って、北川景子演じる三軒家万智にしゃべらせる。見終わったあとは、すっきりさわやか。結局、このてのシンプルさがシリーズ化される人気につながるのかもしれない。平日の夜は難解なストーリーより爽快さがいい。それにしても、こうしたヒロインが最近はやる。ちょっとサイボーグ的な。義母ムスの綾瀬はるかもそうだしね。揺るぎないヒロイン。不器用だけど折れない心でストレート一本勝負。案外、救世主は、男性ではなく、女性がいいのかも。まあどっちでもいいか。男だって、女だって。今はそういう時代だ。

ウインターブラザーWinter Brothers(2017 デンマーク・アイスランド)

2019年北欧映画第2弾。今回は雪と石灰と裸の映画。デンマークアイスランドの合作らしい。色彩は北欧チックだが、中身は重くて救いがない。寒そうな北欧のどこかの田舎町の石灰工場で働く兄弟の話。弟エミルは社会性に欠ける、ちょっとやばい人。工場の薬品を盗んで密造酒を作り、仲間に売りつけている。やがてそれがばれて工場でも浮いていく。ただでさえ辺鄙な場所の暗い石灰工場。外は雪で白銀の世界。工員は地下の闇で頭につけたライトだけで岩を掘る。闇の中、ヘッドライトがチラチラ動くという映像がやたら長い。エミルの孤独に寄り添えないまま、映画は進む。印象的なのは男たちが裸になるということ。寒い寒い外とは対照的に室内は暖かいのか、弟エミルはやたら裸になる。工場でおしっこしたり、お兄さんと裸で喧嘩したり。男性の裸だけをこんなにじっくり見たことなかったので新鮮だった。最後には兄との喧嘩の原因だった彼女と仲良くトランプでマジックをしているのをみてちょっとホッとした。それでも救われない映画だったなあ。映画が終わって、私がホッとした。

ルールズ・フォー・エヴリシング The rules for everything (2017 ノルウェー)

毎年この時期に北欧映画を見ている。今年は友人が招待してくれた。ありがとう。この映画はノルウェーの映画。地下資源が豊富で、まじめなお国柄のノルウェー。お友達もいないし、行ったこともないからノルウェーの知識は乏しい。映画は幼い少女が「世界にはルールがある」とつぶやいて始まる。少女の父が突然母の前に愛人を連れてきて家族として一緒に住みたいと思うと提案。ありゃりゃと思ったら、いきなり父親は愛人と交通事故でなくなる。家族のルールを超える前にふたりは死んでしまった。詩を読んでいるように、場面は展開する。映像が重なりつつ、ちょっと冷たく、ちょっとコミカル、なんとも言えない浮遊感がある。さまざまなルールがあって、それぞれのルールが重なって、世界はルールのカオスとなる。人はあっけなく死ぬ。死さえも冷たく突き放している目線があって、深刻な悩みもどこか滑稽だったりする。ものさし次第で見え方も感じ方も千差万別。人生いろいろ。男もいろいろ。カオスの海に翻弄されているうちにたどり着いた岸辺はもう夕焼け。オレンジ色がキレイと思っているうちに日は沈む。自分のルールで首を吊ることはない。ルールを飛び越えて見たい景色を見に行っていい。たとえそこでエンドマークが来ても。少し早いだけかもしれないし。

 

井上ひさし「自家製 文章読本」初版昭和54年

井上ひさしを続けざまに読んでいる。面白い。日本語の広い知識と並々ならぬ愛情が好きなのかも。この本は、井上ひさしの言葉へのこだわりの源泉みたいな気がする。少々こだわり過ぎてついていけなくなった部分もあったけど。言葉を生業とする人の志の高さだね。難解さも自分の勉強不足のせい。もうちょっと知識や根気があれば、井上ひさしと一緒に日本語文法の海を悠々と泳ぎ切ることができただろう。今更かもしれないが、まだまだ未来を信じて努力研鑽。それが謙虚な生き方だと思う。若いころ、素敵なお相手だったのに、結局別れてしまったのも、私にもうちょっと大きな心と根気さえあればよかったのかもしれない。長く生きて来ると同じ流れを何度か経験する。でもそんな甘い過去ももう化石。井上ひさしも鬼籍に入って久しいし。でもいい本は残る。残りの時間、できるだけ良書に出会って言葉の海を楽しみたい。幸せは自分で作るもの。ターシャテューダーもそう言ってたし。

アリー スター誕生 A Star Is Born(米2018)

今年は音楽映画の年だった。最後がレディガガ主演のアリー。一番楽しみにしていた映画
でもあった。才能溢れる若者がスターに見いだされ、やがて大スターになる話。内容はベタだったが、レディガガの歌が素晴らしいのと、ブラッドリークーパーがあまりにもチャーミングだったので、気がついたら涙の堤防が決壊していた。ガガはインタビューで言ってたように、主人公アリーを演じているというよりもアリーの人生を生きているようだった。最初の歌ラビアンローズでがっつり、シャローでどっぷり。最後のアイルネバーラブアゲインで号泣。ガガ様、さすが。それにしてもブラッドリークーパーがいい。フェス会場を満席にするスーパースターのシンガーの役。ちょっとロック風のカントリーのシンガーで、やがてアルコールと薬でボロボロになっていく。その駄目な男を全身で守るアリーの姿が心に刺さって痛い。アリーが自分を見いだしてくれた男というだけで彼を愛しているわけではないことが、ブラッドリークーパーなら体現できるし。彼なら説得力がある。最後は切ないのだが、スターというのは悲劇を伴うもの。悲劇を抱えてこそはじめてスター誕生なのだ。大画面を前にしてドラマの渦に巻き込まれながらきく音楽もいいなあ。クリスマスの夜、駄目な男を愛するという贅沢について考えた。辿り着けない何かを抱えて生きる覚悟がちょっと崇高に思えた。ガガの歌声が胸のうちを照らす。今年最後の映画。終わり良ければすべて良し。

ペール・ヴァールー&マイ・シューヴァル著「笑う警官」(角川文庫1972年)

スウェーデンの警察小説。夫婦が共著で書いている。マルティン・ベックシリーズとして10作ほどあるらしい。そのひとつがこれ。ストックホルム郊外で2階建ての路線バスで殺人事件が起こる。その捜査の中心がマルティン・ベック刑事だ。北欧というと、ムーミンアンデルセン、オシャレな家具やら、充実した社会福祉しか思い浮かばなかったが、警察小説を読むと、いづこも同じ秋の夕暮れ。酔っ払いもいるし、麻薬中毒もいるし、詐欺師、売春婦もいるのだ。世界のどこかの国が幸せ一杯パラダイスというわけではない。小説は面白い。スウェーデンの地名やら名前に馴染みがないので、そこに戸惑うことはあったが、とにかく飽きるこなく読み進められる。殺人課の刑事たちの個性がしっかり描かれている。後半、全方位から渦巻きのようにぐるぐると事件の核心に近づいていくあたりは見事だ。古い小説だが北欧を知らないせいもあるが、古さを全く感じない。さすがミステリーの賞を取る作品だ。寒い冬はミステリーを読むのには最適かもしれない。暖かい部屋でゆっくり読みたい。ミステリーと寒さには何か引き合うものがあるのかもしれない。とすると北欧ミステリーが面白いのもうなづける。年末年始はミステリー三昧にしよう。ちょっと楽しくなってきた。

NHKドラマ10「昭和元禄落語心中」

岡田将生と山崎育三郎のダブル主演のドラマ。タイプの異なるふたりの男が共に落語を愛し噺家になる話。落語を真ん中にして対称的なふたりの男は、やがて「みよ吉」という芸者を挟んで、ひとりは死んで、もうひとりは生き残る。残った菊比古が八代目八雲を襲名し、亡くなった初太郎(助六)は、みよ吉との子ども小夏を残す。小夏は八雲の養女となってやがて八雲の弟子与太郎と一緒になる。原作はマンガらしい。最近はマンガ原作が多い。面白いストーリーに落語の演目が重なる。「タイガー&ドラゴン」、「ちりとてちん」など。役者さんは大変だが、見ている方は2倍楽しい。今回はそれが美しい男性ふたりがやるのだから、たまらない。岡田将生君の老け役は随分無理もしているのだけど、老獪な魔女のようでそう悪くない。小夏演じる成海璃子はこういう我の強そうな役ばかりだけど、特に今回はいい。かたくな小夏と老獪な八雲、ふたりに共通するのは、失った助六を求める「切なさ」。同じ哀しみを抱きながら生きていく。しびれる。助六の「芝浜」も良かったなあ。「野ざらし」「死神」、落語がしみる年頃になった。。