浅野秀剛「浮世絵は語る」講談社現代新書(2010年)

浮世絵の考証の話だった。最初はどこに連れていかれるのやらと思って読み進めていたが、読み終えると浮世絵の楽しみ方が広がった気がした。いつ、どこで、誰を描いた作品かを考えることは、言われてみれば当たり前だが、当たり前を想像することもなく今まで生きてきてしまった。残念。本書は浮世絵の本だけあって、挿絵がたくさんあるが、それでも、もっと絵があればわかりやすいのにと思うところが多々あった。諸事情でこれだけのボリュームになっているのだろう。言葉だけで理解できない自分がこれまた残念。それでも作者の熱意のおかげで、浮世絵考証の面白さ、難しさが垣間見えた。美人画、役者絵、名所図と考証には違いがある。きもの、髷、紋、印、版元、歌舞伎の演目など、さまざまな要素が絡み合って一枚の絵の年代は確定してくる。気のせいだが、漫然と絵を眺めていた時分とは格段に見る目ができた気がする。しかし、200年も前に描かれた江戸の浮世絵。絵師たちの魂が時間を越えて今の私たちの眼前に浮かびあがってくる。コロナで運よく生き延びたら歌舞伎も浮世絵も存分に見にいきたい。ソーシャルディスタンスとかそのうち笑い話になるといいね。人生も夕暮れ時、命が暮れてしまう前に、走り抜けないとね。死神に追いつかれてしまう。