橋本治「愛の帆掛船」新潮文庫(平成元年)

面白くてあっという間に読み終えた。4つの愛のお話。どれもこれも濃厚で奇想天外、読んでいくうちに迷宮に連れて行かれる。その快感が強くて、しばらく忘れられない。橋本治さんも既にお亡くなりになっている。これまた生前は読んだ事がほとんどなく残念無念。流れるような文章で、隣で誰か知らない人が話しかけてくるような語りでぐいぐい世界へ引き込んでいく。読むほどに思いもかけない扉が次々開き、疾走して果てる。あれに似てる。この文庫は書き下ろしらしく、挿絵も入っている。それがなんともいえない絵で作品にピッタリと寄り添う。読み終えて、愛は深いし、その薄っぺらさがいとおしいと感じた。浮気をした男心が、自分の気持ちに誠実なのもよく分かったし。家族は仕事と似ていて、そこに愛よりも労働に比重があることも分かった。生きることの意味をこういう形で感じることが出来る小説を私は他に知らない。稀有の作品だ。合掌。