瀬戸内晴美「嵯峨野日記」新潮文庫(昭和61年)

瀬戸内晴美さんのエッセイ集。出家して数年の作品らしい。出身の徳島の話や、得度した平泉の話、京都嵯峨野での日常やら、500ページをつらつら読んでいくと、作者の印象がすっかり変わってしまった。この人のこと、好きかもしれない、似ているところ多いかもなどと思い始めた。いつものことだが、もっと早く読んでいたら良かっただ。作者の物事を肯定的にとらえる姿勢、好奇心と行動力、自由への情熱。彼女が99歳という年齢まで生きられたのは、こうした彼女の性質によるところが多いのだと思う。長生きできる丈夫な身体があったからこそ、こういう性質になったのかもしれない。生きるということは大変なことだ。老いの入口で既に気が滅入っているのだが、今後、老いは深まるばかりなのだから、落ち込んてばかりではいけない。情熱を失わず、謙虚に、機嫌よく生きていくこと、なかなか難しいが、この本を読んでいたらそのヒントが少しあるような気がした。寂聴さんが「まだまだこれからよっ」と、隣で笑っている気がした。