サン=テグジュペリ作・内藤濯訳「Le petit prince 星の王子さま」 岩波書店(2000年)

亡き母のわずかな蔵書から持ってきた本。はじめの方に鉛筆で少し線が引いてある。なぜ引いたのか、なぜこの本を手にしたのか、何も知らない。もう聞くこともない。サンテグジュペリの「星の王子さま」といえば、バオバブ。アフリカで初めてバオバブを見たときも、ほんのり酸っぱい味の実をなめたときにも、枝をなぎ倒すゾウを見たときも、この話を思い出した。やっと読めたよ。お話には可愛らしい絵がついている。小さな星からやってきた星の王子さまが、いろんな星を巡って、地球の砂漠で困っていたボクのところにもやってくるという話。王子様はボクの質問には答えないが、不思議な魅力でボクを魅了する。「見えないものが大切だ」と王子は何度も言う。最後に王子は姿を消す。ボクは輝く星を笑顔で見つめ王子を思う。掴みどころのない話だった。そこがおしゃれでもある。大人には見えない世界、大人の理屈では図れない世界、想像の翼を広げよう。大人の世界からもだんだん逸脱しつつある昨今、このくらいの荒唐無稽な話の方がリアルに感じてくるから不思議。亡き母がどんな感想を持ったかはお空の上に行ってから聞こう。案外読まずに積ん読していたのかもしれない。またそれも母らしい。懐かしい気持ちに出会えた本でだった。