群ようこ「着物がきたい」角川文庫(令和5年)

「着物が着たい」というタイトルに惹かれて読んだ。軽いエッセーを期待していたので、ガチの着物相談に戸惑った。自分の無知をあらためて知り凹んだ。巻末にある注釈では全然足りなかったし、写真やイラストでもあればもっと勉強になったのにと、ひとしきり文句を言って八つ当たりした。それだけ和服の世界が奥深い沼であるということだ。容貌も衰えてきた年頃には、和服の持つ豪華さ、たおやかさに惹かれる。着物を着たところで何が変わるわけではないのだが、それでも心が浮き立つのたから不思議である。母から、祖母から、受け継がれた着物には何かしらの想いも感じる。母の若かりし頃、祖母の針仕事の様子など、懐しく感じながら、袖を通すのは格別な時間である、正絹の重さや滑らかさは実に心地よく、それだけで豊かな気持ちになれるのだ。ファストファッションとは対極にあるのかもしれない。でも両方あっていいのだと思うし、両方着られる幸せが今の私たちにはある。これも多様性かもしれない。着物への愛から、著者の本に八つ当たりしたのも、彼女の方が着物をよく知っていたから。嫉妬である。着物とはかくも深き愛を秘めた代物なのであるよ。