梅原猛「中世小説集」新潮文庫(1993年)

梅原猛さんが亡くなったのでこれも読んだ。読みやすい。するすると中世の説話の世界に吸い込まれる短編集。「首」は最後は血みどろの首が戦う、おどろおどろしい話だか、途中、鉄柱にしなだれかかった女が鉄の玉を生むという話など、なかなか色っぽくてぞくぞくした。中世ならではの、わけわからん、なんでもあり、の世界だ。「物臭太郎」もいい。物臭な男が無為な暮らしを続ける。3年が過ぎると、小さなきっかけで事態が転がり大きな実を結ぶ。「三年寝たろう」みたいな話で、心理学の河合隼雄さんを思い出した。ただじっとしていることも必要。高く飛ぶには低く沈むというか。無為を決めこむ勇気というか、人生万事塞翁が馬だね。「蓮」も切ない。法然上人の念仏の教えを無邪気に信じた武人が純粋に極楽浄土に向かう姿勢にうたれた。宗教はそんな無邪気さから芽がふくのかもしれない。どの話にも底を流れるのは、梅原氏が探し続けた日本人の源。決して美しいわけじゃない。結構図太く逞しい。スマホに疲れたり、雑踏でぶつかったり、わけもなく元気が出ないとき、読むといいかも。「これでいいんだよ。」遠くからそう言われた気がした。梅原猛様に感謝をこめて。合掌。

岩﨑家のお雛様と御所人形 静嘉堂文庫美術館

こんなところにこんなお山があったとは。成城学園前駅からバスに乗って吉沢で降りて10分ほど歩くと静嘉堂文庫と美術館に到着する。美術館には岩﨑家所蔵の名品が展示されている。今回はお雛様と御所人形。お雛様は頭が大きくて3頭身くらいの愛らしいお人形だった。あんまり見たこともない雛様でちょっと感動する。三人官女、五人囃子から仕丁、お道具に至るまで見事な品々。凝った細工と技。当時のこの技は今も受け継がれているのだろうかと思った。雛道具のひとつ、犬筥(いぬばこ)が特に気に入った。張り子の犬みたいね箱で、とぼけた表情が独特。犬は子だくさんだからか夫婦和合の象徴らしい。親が娘の幸せを願って作らせたのだろう。雛様の次は御所人形。御所人形とは幼児をかたどった人形で、白い肌と真ん丸の顔が特徴。岩﨑小彌太氏の還暦祝いに奥様孝子夫人が人形職人の名人五世大木平蔵に作らせたものらしい。今にも動き出しそうな、表情やしぐさ。さすが三菱財閥。贅を尽くして作られた人形たちはずっと見ていても飽きない。時代を経ても受け継がれる作品は今はどんどんなくなっていくのかもしれない。未来は過去よりずっと素敵だと思っていた。時代は先に行けば行くほど、進化していくわけではないのだね。時間は学習しないの?見ている人間だけが老いていく?なかなか良いお山へのお散歩だった。

NHKよるドラ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」

ゾンビが流行っていて、NHKが「ゾンビ」をやるというので、最初は見なかった。偶然再放送を見たら面白くて見始めた。ゾンビを巡ってバタバタしているうちに、人生を見つめ直していくお話。原日出子のゾンビの演技がいい。夫の岩松了をテレビショッピング見て待っているうちにゾンビになっちゃった。スナックのママが葛城ユキボヘミアンだったのも感動。ちょっと頭の弱そうな土村芳ちゃんが相変わらずかわいい。ゾンビのせいで世紀末的な雰囲気のするドラマ。地方の寂れた街の雰囲気のせいか、ふしぎな「終わった感」がある。実際、賑わいを失くした地方の町には、東京などにはない「無音地帯」がある。人は死ぬとき、最後まで聴覚が残るとか聞いたことがある。世界が終わる時も、死ぬ直前に感じる「静けさ」と通じるものがあるのかも。前回は親友の旦那と不倫していた女が言った、「世界中を敵にまわしてもお前を守るじゃなくて、お前が私を世界中の敵にするなよ。」って。なかなかの名言だと思った。

日本テレビ「3年A組 今から皆さんは、人質です」

毎回熱い。主演の菅田将暉に目が釘付けになる。気づけばクロマニヨンズのエンディングテーマが流れて、緊張からの解放。週末が閉じていく。お話は高校の美術の先生がクラスの生徒全員を人質に教室に立てこもって、水泳部の生徒の自殺問題を解明する。ネットで中継したり、書き込みしたり、SNSが見せる「暴走」も描く。表面では仲良くニコニコしていても、心の底では舌を出したり、罵ったりと、そんなことは昔からみんなやっていた。ただ心の悪意を以前は垣間見るチャンスは少なく、明らかな罵詈雑言に対応していればよかった。だがここ最近は、SNSという便利なツールのおかげで、他人の悪意を簡単に見ることも、晒すこともできるようになった。なんにでも副作用はあるものだ。主役の永野芽衣ちゃんは朝ドラの変な役から、解放されていい感じである。まだ若かったんだもんね。自殺する水泳部の上白石萌歌は義母ムスで知ったが、東宝シンデレラガールなんだ。将来は科捜研の女?「恋のツキ」の神尾楓珠君も出ている。有力若手総出演、ここから第2の菅田将暉が出るのかもね。いろいろ無理のある設定だが、すべては菅田将暉くん。君を見たくて、君の熱い語りを聞きたくて、私は見ているのかもしれない。

梅原猛「百人一語」新潮文庫1996年

先日亡くなった梅原猛の本を読んだ。100人の日本人の一言をテーマにそれぞれ3ページで簡潔にまとめられた話は、よく知る歴史上の人物から、聞いたこともない人まで、面白くまとめられている。無知な私にも読みやすい。どのページも、ひぇーと思うことばかりで楽しくあっという間に読み終えた。古代から中世までを好む私の興味と重なった部分も多い。こんなに面白いんだったら、もっと読んでおくんだった。いやあぁすごいすごい!と感動していたが、ウィキで梅原猛を読んだら、梅原氏への批判も多いらしい。なるほど。意見はいろいろあるらしい。ちょっと冷静にならなくては。あとがきに、新しい仕事を始めることで、新しく勉強できるということを喜んでいるとあった。今までやってきたことを本にまとめるというのもあるが、本を書くために勉強できるというのがいいと言う。93歳まで生きた知の巨人はやはりすごい。もう人生の晩年だと夕焼け気分になっていてはいけない。好奇心旺盛のまま、にやにやしながら死にたいものだ。

よしもとばなな「さきちゃんたちの夜」新文庫 2013年

私の周りにも「さきちゃん」がいるので買って読んだ。この本は「さきちゃん」が主役の短編集。5つの話全部にさきちゃんが出てくる。一番気にいったのは、豆のスープの話。老夫婦とその息子と離婚した奥さんと娘の咲ちゃん。離婚後、娘と一緒に、だんなの両親と暮らすお母さん。祖父と祖母は小さな家で豆スープを毎週作って周囲の人に無料で提供する。やがて祖父と祖母は亡くなり、母は豆スープを離婚した父と一緒に再現する。旦那さんの両親と折り合いの悪いお嫁さんも多い中、その微妙な人間関係を選んで暮らす母。「家族じゃないけど家族な感じ」に、「よしもとばなな」を感じる。是枝監督に通じる今のトレンドかも。どの話も日常のエアポケットみたいな話で、そこだけ別の時間が流れている。誰も傷つけることなく、誰もが冬のひだまりみたい。硬いんだけどほんわか暖かい。素朴でまっすぐな魂。飼い慣らされていない野生動物の美しさみたい。さーっと読めるがじんわり来る。女子的読書生活によしもとばななはぴったりかも。すぐに読み終えたので、この本は私の「さきちゃん」にプレゼントした。

 

テレビ朝日「ハケン占い師アタル」

大物脚本家、遊川和彦のドラマ。一癖も二癖もあって私は彼のドラマが好きだ。今回は霊視できる派遣占い師アタルちゃんのお話。杉咲花ちゃんがアタルちゃん。その母親が、若村麻由美。派遣先がイベント会社のDチーム。メンバー全員問題を抱えていて、職場の雰囲気も悪い。メンバーひとりひとりに毎回問題勃発し、やがて自暴自棄になったところで、アタルちゃんに占ってもらう。あーら不思議。見えているようで見えていなかった「真実」をアタルちゃんがサディステックに言ってくれる。状況は何一つ変わらないのに、占ってもらった人間の心の霧がすーっと消えていく。毒を吐いていた社員が変わると職場の雰囲気は一気にやわらぐ。「家を売る女」と同様、こちらもストーリーはシンプル。アタルちゃんに占ってもらうとうまくいくのである。番組後半に向かってアタルちゃんのママが出てきて盛り上げてくれるんだろうね。楽しみである。アタルちゃんは占い師というより霊視?の人だが、だれでも、自分を自分以上に理解している人を欲している。選択肢が多過ぎて情報一杯て苦心している私たちだが、実際は何を選んでもそう大した違いはないのかも。選択次第で、やる気次第で、世界はバラ色になるのだと信じてしまった私たちは、情報の海で溺死寸前なのかもしれない。誰かに何か言ってもらうだけで救われる人は多い。でも本当は誰にも言ってもらえなくても、胸に手を当てて耳を澄ませば、声がきこえるはず。神様はここにいる。ちなみに悪魔も同じこの私の中にいるのだけどね。