中村紘子「チャイコフスキーコンクール ピアニストが聴く現代」新潮社(1988年)

本が出た頃に読んだ記憶がある。30年の月日を経て再読。今読んでも面白い。年月を越えても変わらぬ面白さ、素晴らしさ、当時の私は知る由もなかった。我が家の古い書棚にある数少ないロシア系の本として手に取ったのだが、ロシアという国を知るという点でも興味深い本だった。当時はソビエト連邦。筆者は日本で1番有名なビアニストだった中村紘子さん。美しくて華やかで、知的て気品にあふれた彼女が1か月半ほどソ連に滞在して審査員としてチャイコフスキーコンクールな参加した話だ。コンクールの話に加え、文化、ビアノの歴史など、さまざまな話が絶妙に混ざって、どんどんページが進んだ。ビアニストなのにこんなに文章が上手なんて。それが中村紘子という人間の深みなのかと思うとあらためて感動し、同じ国に生まれて良かったと思った。さて、今の日本のピアニストたちはどうしているのだろう。経済力も、清廉さも失った我が国で、芸術家達はどうやって生き抜いているのだろうか。古い体質がすべて悪いわけではないが、今はその弊害ばかりが目につく。既得権益に居座る魔物には退散してもらいたい。そして、明日は安倍さんの国葬らしい。