三井記念美術館は初めて来た。三井本館の立派な建物の一部が美術館になっている。お雛様の部屋は重厚な洋館で、赤い毛氈の上にどーんと座るお雛様たちはうやうやしく輝いていた。3月3日を過ぎた会場は、嫁入り時期をとうに過ぎた女性たちで賑わっていた。「嫁入り」という言葉も今の時代にはそぐわない。だが、昔ながらの、お雛様を大事にしてきた心持ちはそれとは別である。贅をつくした人形たち、工芸の技をこれでもかと見せてくれる雛飾りは、何度みても、いつ見ても溜息が出る。静嘉堂文庫の岩崎のお雛様と比べるとこちらは、細面の美形雛が多い。お雛様につきものの戌箱がここにもあった。なんとも言えない顔をした犬を見ていると娘の成長を願う親心がしみいる。もうひとつ目を引いたのは御所人形。3頭身ほどのプロポーションの真ん丸な人形が表情豊かに並ぶ。たくさんある人形がひとつひとつ、表情もしぐさも、違うのだから、これも贅沢な人形たちである。小さな道具箱の緻密さや、人形の着物の細部の刺繍などを見ていると、作り手の技と魂が時代を越えて私たちに迫ってくるような気がする。工芸は書画とは違った、生活に溶け込む親しみやすさがある。作り手の息遣いが聞こえるようである。女の子の幸せを願った人形たちを見ながら、結婚から遠く隔たった自分をめでたいと感じている。政府は少子化と結婚を結びつけているが、子どもは結婚の有無とは関係なく産めるように整備したほうが良いと思う。産みたい人が産めるようにすればいい。結婚と別枠で考えれば子どもは増えるのではないだろうか。もちろん結婚して子どもを持つのもよいのだが。女が幸せな社会はきっと男にも幸せだと思う。まずは社会の基本をリニューアルしないとね。