千野帽子編「富士山」角川文庫(平成25年)

「近日処分するのでご自由に」という段ボールの中から拾ってきた本である。「富士山」についていろんな作家が書いた文章を一冊の短編集にしている。太宰治夏目漱石永井荷風赤瀬川原平丸谷才一など、それぞれの作家の個性が出ていて面白かった。特に丸谷才一はどうしてこんなに面白いのだろうね。難しい話を読みやすくて面白く読ませてくれる天才である。知性とはこういうことなのかと、彼の本を読むたびに感動する。赤瀬川原平さんのは独特の風刺が効いていて、これまたしびれた。アーティストは、見つめる目線がいつも新しい。それでいて軽くて静か。過激さがオシャレでいい。トリの新田次郎の遭難話は、現実にあった話をもとにして書いたらしい。春の富士山登山はそんなに危険なのか。読みながら息が詰まるほど引き込まれた。これを読むまでは、人生一度は富士山登山かなあと考えていたのだが、新田次郎まで来て、やはり富士山登山は断念して終わった。富士山は特別な存在である。日本一の山。気がつくと、小学校の音楽の時間に習ったあの歌を歌っていた。知らぬ間に心に入り込んでいる富士山の存在、恐るべきである。相手が富士山で本当によかった。