福田恆存「私の幸福論」ちくま文庫(1998)

義父から貰った当時も読んだが、何も覚えていないので再読。元々は1956年に書かれた「幸福への手帖」がもとなので古い著作である。今の時代にそぐわない部分もあるが、なかなか面白かった。最初に美醜の話で、見た目に人が左右されるのは仕方ないから諦めなさいという。世の中は不平等なのだから、代わりにそんなことに惑わせられない生き方を見つけることが肝要だという。全くその通り。自我、自由、職業やら普遍のテーマを掘り下げながら、平易な言葉で丁寧に読者を導いていく。こういうのを知的保守系というのかしら。保守系は苦手だと思っていたが、最近になって嫌いなのは、保守じゃないなと気がついた。「きちんとした説明」、「丁寧に説明」とよく耳にするが、きちんとも丁寧でもないし、そもそも説明自体がなかったり。言葉の冒涜か、相手を馬鹿にしているのか。その両方なのかもしれない。福田恆存が言うところの「教養」がないのかもしれない。さて幸福論を読んだからといって、幸福になるわけではない。とはいえ、常に不幸のどん底にいるわけでもない。実質的なものだけでは生きていけないけど、夢や霞では生きていけない。何事も中庸が1番という、面白くもない結論に至るのだが、それがなかなか難しい。いつ死ぬか分からないが、今ある材料で考えて進むしかない。たとえそれが自信なくても、きっとそれが幸せなのだと。