NHKよるドラ「恋せぬふたり」

岸井ゆきのが良い。高橋一生が出ているから見始めたが、今はふたりに引き込まれている。恋愛やエロスを感じない人たち、感じたくない人たちのお話で、恋はしなくても寄り添いあって、幸せに生きてもいいのではないのかと問いかけるドラマ。見ていると、いつの間にかそっち側に行っていて、恋愛ってそんなに?って気持ちにまでなる。ある程度の年齢を過ぎると恋愛とも距離が出来る。自然と恋愛至上主義ではなくなるのだが、若者は恋愛して当たり前と私も含めて多くの人は思っている。でも考えれば、恋愛は少し前までは必修科目ではなかった。昭和の高度経済成長期くらいまでは、恋愛結婚も少なく、お見合いなどでほとんどが結婚して家族を形成していた。そこから半世紀。自由に恋愛、結婚が当たり前になり、恋愛が必須になった。だが以前より幸せな関係が築けているかと問えば、そうでもない。愛という御旗の元で歓喜する時間は思いのほか短く、あとは宴の終わったテーブルを延々と片付けている人も多い。ドラマのように、恋愛もセックスもなく幸せに暮らしたいという若者がいても当然だし、生涯恋して暮らすもいい、阿佐ヶ谷姉妹みたいに暮らすのもありだ。一緒に暮らす形態にもっとバラエティがあってもいいはずだ。今、答えは無数にあって、正解は自分が決めればいい。各々が選び、その選択を皆が尊重することが、今、求められている大人の対応らしい。でも選択できる幸せはある程度までで、選択肢が多いのも疲れる。何事もいいあんばいが、なかなか難しい。

立花隆「ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術」文春文庫(2003年)

「知の巨人」立花隆の簡単書評本である。その前後に、彼の大量読書術と速読術の披露、最後は「『捨てる』技術」という当時の人気本を一刀両断している。立花隆は、彼がこの世を去ってから読んでいるわけだが、難しいことを分かりやすく面白く書く技術が卓越している。こんな私でさえ彼の文章なら相当難しいことでも理解した気分になれる。本当に惜しい人を亡くした。今まで読んでこなかった自分が残念である。今回は彼が紹介する本の話が大半だが、彼の勧める本はどの本も面白そうである。紹介している分野も幅広く、まさに「知のデパート」。四半世紀も前の本だが、若者の科学離れを嘆く一節など今の世の中をぴったり予言している。思えば、安倍さんも菅さんも、科学は苦手そうだった。コロナ禍の政権が科学に暗いというのはなんとも残念だった。ドイツの元首相のメルケルは物理学の博士号を持っていたとか。自分も大して勉強して来なかったから、人のことは言えない。しかしこんな年になっても、勉強して損はない。いくつになっても、学ぶことは楽しく、知ることは幸せだ。それを知ることが出来て私は幸運だよ。

林真理子「ルンルンを買っておうちに帰ろう」角川文庫(昭和60年初版)

林真理子出世作。以前読んだかもしれないが、また読んだ。面白かった。今では林真理子は大作家先生。文学賞の審査員だし、大河ドラマの原作者だし、話題の「8050問題」の本も書いている。今では大御所の林真理子だが、その昔はとても面白いお姉さんだった。女の子の本音をテンポよく語り、あの時代にちゃんと階段を登っていった。本人が言うようにあの時代のサクセスストーリーを体現していた。成功には「野心」があった。「野心のすすめ」を読んだ時も思った。もっと野心を育てるべきだったと。しかし、当時の私は野心を卑しいものだと思い、頑張る努力を怠った。怠ける理由にしただけだ。情けないけど、私はそういう輩だった。さて、この本を読んであらためて気がついたのだが、私はどうも林真理子が好きらしい。文春のページも楽しみに読んでいる。何でも気づくのが遅い。もう遅れは取り戻せないけど、ちゃんと前を向いて行けるとこまで行きたいな。あと一歩だけ前に進もぅう。

東京バレエ団 子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」横浜関内ホール

友人のお嬢さんが出演されているので見に行った。新型コロナウィルスの第6波で感染者激増だが開催。空席がまばらにあるのは、観客数を減らしているのかもしれない。子どものためのバレエで、オープニングにセリフを入れての説明があった。わかりやすいので、子ども並みの素人にも優しいバレエだった。主役のふたりは小柄だったが、几帳面な踊りの印象。バレエの良しあしはイマイチ分からないが、楽しい舞台だった。正味1時間で夢からさめて現実へ。美しい舞台を見せてくれた若者たちの姿を反芻しながら、一体どのくらいの努力をしてきたのだろうと思った。本人はもちろんだが、金銭的なことも含めて家族のサポートなしでは成り立たない世界。家族がいない人や、お金がない人には無縁の世界なのだなあと感じた。冬の寒い街角に立って、世界は不公平が当たり前だとあらためて思う。せめて皆が努力できる世界で暮らせるといいのに。努力できる幸せ。チャレンジできる幸せ。忘れがち。

日TV「恋です! ヤンキー君と白杖ガール」

杉咲花ちゃんが弱視の女の子を演じるラブコメ視覚障害を持つ人の暮らしがドラマを通して少し分かったような気がする。毎回登場する全盲のお笑い芸人さんの、「どっちかわからんかったら、わろといて下さい」も好き。ドラマはそこそこいい加減さを含んでいて、でもそこそこシリアスで、いいあんばい。前回は盲学校のクラスメート空ちゃんが登場。目が見える人の無意識の上から目線が嫌だという。なるほど。小さなセリフに波だつ。主役おちょやん杉咲花ちゃんは小さい。相手役の彼と並ぶとかなりの身長差、この構図がなんだか懐かしい。杉咲花が素晴らしいので、お姉ちゃんの深川麻衣もお父さんの岸谷五朗もいい。今季は重めのドラマが多いので、これはクリーンヒットかな。障害だけではないが、突きつめれば、当事者しか本当の意味の苦労は分からない。分からないから、余計なことしないでおこうともなる。しかしそこで、気軽に行動できる軽率さやお節介が、わりと大切なのではと思う。余計なお世話になったとしても、それはそれでいい。中にはそれを待っている人もいる。面倒くさい摩擦を避けて、生きてきた。ややこしいことは少なかったが、面白みも醍醐味も少ない人生だったと思う。まあそれも人生のひとつだが、残りの人生は方針を変える?大きなお世話をして、人様に少しでも喜んでもらえたら幸せだ。終わりよければすべてよし。最後が大切。

NHK朝ドラ「カムカムエブリバディ」

大好きな脚本家藤本有紀さんの朝ドラだから朝から幸せだ。それにしても上白石萌音ちゃん。本当に小さくて、顔もスタイルも全然今どきじゃないのでけど、限りなくかわいくて切ない。「恋は続くよ」の時もまんまと引きずりこまれたけど今回も凄い。和菓子屋の安子ちゃんにすっぽりハマってしまった。お相手の稔さんも理想の昭和エリート青年の顔かたちをしていて、毎朝しびれている。モネも良かったけど、アプローチが長くて前半はきつかった。今回は3人ヒロイン体制のせいか、いきなりクライマックス。楽しい。既にカムカムに脳内上書きされてしまった感がある。今回の共演者もお気に入りの人が多い。濱田岳もそうだが、夢の遊眠社時代からのお付き合いの段田安則。「和田家の男たち」も見ている。稔さんの弟村上虹郎も、和菓子屋たちばなの祖父大和田伸也もいい。安子ちゃんのお友達の豆腐屋のきぬちゃん。いいネイミングだし、きっと将来は伊藤沙莉的に売れそう。朝の小さな幸せ。小さいことから少しずつだね。

小林秀雄「本居宣長(上)(下)」新潮文庫(平成4年)

上下巻2冊をやっと読み終えた。小林秀雄なんて無理だと思っていたが、一生読まないで終えるのも悲しいので、最後のチャンスと手に取った。引用がとても多くて、読み進めるのに難儀した。だが、少しずつ読めば何とか最後にはゴールに辿り着けるものだ。マラソンもきっとこんな感じかもしれない。本居宣長は昔から近くに生家があるせいで知っていたが、こんなに凄い人だとは思っていなかった。「もののあはれ」という言葉だけ、それしか知らなかった。賀茂真淵、契沖、荻生徂徠。歴史の教科書でサラッと触れただけの人々が宣長と共に目の前に現れ、肉声を発する。面白かった。大河ドラマにして欲しいが、アクションが少ないから無理だなあ。でもそれくらいドラマチックだった。書き言葉がなかった時代が貧しい不便なわけではない。宣長はそれがよく分かっていた。過去は未熟なわけではない。スマホもパソコンもなかった私の子ども時代も決して不便でも貧しくもなかったし。辛い読書だったが満足感は残った。無理なことに挑まずに生きて来たが、残りの人生は出来るだけ挑戦の日々にしたいと思う。もう失うものは本当にない。あとは死に向かうだけなのだから。