藤沢周平「刺客 用心棒日月抄」新潮文庫(昭和62年初版)

困ったときの藤沢周平。安定の読み心地と満足が得られる。これは用心棒日月抄のシリーズのひとつのようだ。主人公の青江又八郎は剣の達人。元家老の密命を受けて脱藩して江戸へ赴く。用心棒のバイトをしながら、藩の密命を背負った特殊工作員たちを救いに行くという話。用心棒仲間の細谷、用心棒仕事を斡旋してくれる時蔵、江戸での女工作員の佐知。魅力的な脇役陣を配し又八郎の剣は敵を打つ。途中で、佐知とのロマンスをはぐくみ、晴れてお役目を果たして国に戻り家庭に戻る。風情といい、色気といい、戦闘シーンといい、毎度のことながら読んでいて気持ちがいい。至福。悦楽。時代は違えど人間のなすことも思うことも変わらない。時代小説の魅力はそこにある。お気に入りは池波正太郎藤沢周平だが、既に故人。新規開拓したいのだが、なかなかツボにはまる人に出会えない。藤沢周平ばかりもなんだかなあと思うのが、ちょっと元気のない日は許してもらおう。甘えたい夜は誰にだってある。