藤沢周平「密謀(上)(下)」新潮文庫(昭和60年)

藤沢周平の歴史物は初めてだった。江戸モノにはない緊張感があって、少し戸惑った。時代は秀吉から家康への頃、上杉景勝直江兼続の話だ。波乱万丈の時代、景勝と兼続はただの主従関係以上の仲で、このふたりのやり取りがこの話の魅力のひとつだった。自分が兼続になった気分で景勝を見つめると、上杉景勝は魅力的だし、上杉家というのも質実剛健でいい。石田三成やスパイである草の者たちの話が加わって、一風変わった戦国歴史モノになった。上杉家の話のせいか、家康の描き方が若干手厳しいが、それも面白い。上杉家が無駄な戦いをしないという心情は、今も東北の人たちの気質にどこか通じているような気がする。真っ正直な清々しさ。今こそ大事にすべき気質のような気がする。損得ばかりに目がゆき、利ばかりを追い求めた先が今の世の中。何かと憂鬱になることが多いが、責任は自分自身にもある。歴史を振り返り今一度大切なものを確認するには良い時期かもしれない。マスクの下でもモノは考えられるのだから。