日本TV「家庭教師のトラコ」

遊川和彦さんの脚本。彼の朝ドラは不評だったけど、私は彼のドラマが好きだ。今回はお気に入りの橋本愛ちゃんが主演。3人の母とその子どもたちを教える家庭教師のトラコ先生のお話。台詞の随所に、世の中、そんなに甘くないけど、ただ戦いもしないやつをオレは許さないぞって感じがある。そこが私には気持ちいい。キレイな女の子の怖い顔も大好きだ。それにしても優しい世の中になりました。でも、その優しさがあんまりしみてこないのはなぜだろう。私が幸せだからかしら。優しさの底に隠された怖い鬼の顔が見え隠れするからかも。どんなことにも裏表はある。心優しいあの子だって、冷徹非情な顔があるのだ。隠された刃について、誰も言わないし、聞かない。そもそも見ないようにしている。そんなことだから、私たちはマスクひとつはずせないでいる。そんなことだから、2億円も使って誰のためにもならないことをしようとしている。未來のためにお金は大切に使いましょうよ。

「ルードヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡」 国立新美術館

毎日書道展を見に行った時に気になった展覧会。12時の回からの入場券だったが、余裕があったようで11時から入場できた。館内はちょうどいいくらいの人の入りで、一枚一枚ゆっくり見られ、最高の鑑賞空間。ケルンにある個人の収集家ルードヴィヒ夫妻が寄贈して作った美術館の作品展。ドイツの20世紀、第一次世界大戦やら、ロシア革命、そして第二次世界大戦へと進むなか、集められた美術作品からは時代のムードが色濃く感じられた。今の社会のムードともどこか似通ったところもあり、空恐ろしい気持ちになった。油絵、彫像、写真、インスタレーションなど、多彩で飽きない。仕上げに美術館内のカフェで、特別メニューのケーキとお茶のセットをいただく。至福の時間。マイナーな展示だったが、面白かったし、今見るべき展示だとキュレーターの心意気も感じた。コロナ禍だからというわけではなかったが、エアコンがよくきいていて、薄着で出かけたので冷え切った。暑がりの人には最高に気持ちいいかもしれない。最後のミニ映画で、ルードヴィヒが言っていた。個人でしか収集できないものを、いづれ時が来たら、寄贈する。それが使命だと。美術収集という未知の世界にも縁遠いがゆえにあこがれる。美術とはこうした市井の人々の熱意が伝えていくものかもしれない。自分はこうしてただ見に行くしかないが、これも美術の何かに寄与できるといいのだが。そして、不穏な世界に飲み込まれないように、自分の立ち位置をもう一度確認しないと。そう思った夏の1日だった。

 

 

 

TBS「石子と羽男 こんなコトで訴えます?」

初回見た時はしっくりこなかったが、回を重ねるごとに面白くなってきた。最初に感じた違和感は中村倫也のファッションからか、有村架純の演技の既視感かよくわからない。見れば見るほど心地よくなるのは、「拙いけど誠実がいいよね」を描いているからかもしれない。中村倫也の不器用な弁護士と、頑固なパラリーガル有村架純の、権力とは無縁の弱そうな2人の話にホッとしている。何でもかんでも背負って、ひとりで生きていかなくていいよね。そう頷いてもらっている気になる。ひとりは無力である。誰もいない部屋でひとり悩んでいると、深い深い闇に落ちる。ひとりじゃなければ落ちないような底の底まで落ちてしまう。でも私達はただの無力な人間という点では、誰もが等しい。多少の違いはあっても、同じホモ・サピエンス。誰もが闇の底に落ちる可能性を抱えながら、日々不安を遠ざけて生きている。だから情けは人の為ならずなのだ。いつか自分に手を差しのべて欲しいので、誰かが泣いていれば、行って話を聞かねばと思うのだ。

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟1~5」亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫(2006)

人生で初めてのドストエフスキー。ようやく全5巻を読み終えた。マラソンでも走ったかのような達成感。読んでいる間は、濃密で緻密な話に、ドストエフスキーを生んだロシアの大地に思いを馳せた。ウクライナとの戦争が始まって、ロシアのことを知りたくて読んだのだが、ロシアは遠く大きい。読み終えて初めて知ったが、このお話は未完だそうだ。この5巻が第一部で、第二部が予定されていたのだが、ドストエフスキーが第一部が世に出るとすぐ、60歳で亡くなってしまった。光文社文庫には各巻末に翻訳の亀山郁夫さんの解説がついている。最後の5巻目には、長い全体の解説がある。張り巡らされた伏線や隠された意図、書かれるはずだった第二部の話などをしっかり載せてあり、読後、この物語を一層大きく膨らませてくれている。父殺しのテーマから革命に至る話まで、解説がなければ私には想像もつかなかった。再読したらまた面白そうだが、今は無理だ。それにしても作者の筆力は強く重く深い。圧倒されたが、ほんの少しだが、ロシアの何かに触れた気もした。1日も早く戦火が消え、両国に平和が、訪れることを心から祈る。

PLAN75(2022)

75歳になったら自分の意志で死ぬことができる法律、「PLAN75」は、国の施策で、支度金10万円を貰って安楽死しましょうという国による高齢者削減プログラムだ。映画の最初の方に、75歳くらいの女性が、プラン75のパンフレットを持って相談にやってくる。「一番お手軽なのだと、合同で焼却、埋葬もできます」と、プラン推進を仕事にしている磯村勇人が説明する。映画は静かに、説明は極力少なく進んでいく。主演は倍賞千恵子。実年齢は81歳。素のままの倍賞千恵子が主役を演じる。身寄りがなく、お金もない高齢者は一生働くしかない。ただ仕事は年齢と共になくなり、高齢者のひとり暮らしは大家に嫌われ、住む場所もない。そうなったら、もう死ぬしかないと思うのは自然な流れ。今日が最後の夜だと思って食べる「特上寿司」、私は美味しく食べられる自信はない。75歳まで生きれば十分だろうと思っていたが、私は甘ちゃんだった。安楽死で死んだ人を焼却するために、眼鏡や時計、ベルトなどを遺体からはずす仕事がある。介護士をしていたフィリピンの女性が、高賃金にひかれてこの仕事に転職する。合同で焼却埋葬。死んでしまったら一緒だろうけど、想像するたけで胸が潰れる。これはフィクションだが、いつ日本国が推進しだしてもおかしくない。まるでマイナポイントみたいに。膨大なお金を使って葬儀をされる人がいる一方、ゴミ扱いにされて死ぬ人がいる。安楽死も選択肢のひとつかもしれない。生きるのも大変だが、死ぬのも大変だと痛感した。生き死にはままならないとはいえ、本当に考えさせられる映画だった。

NHKドラマ10「プリズム」

杉咲花ちゃんがうまいのでまた唸ってしまった。毎度違うタイプの役柄を巧みに演じている。今回はちょっと暗い女の子。中学の時に両親が離婚しているモラトリアムな女子。父の吉田栄作は実はゲイで今は東京で男性と暮らしている。母の若村真由美は、娘に過干渉で、長野に帰って来いとうるさい。ややこしい背景で育ったナイーブな娘がひょんなことから、造園会社の藤原季節君と付き合い始める。そこに彼の元カレの森山未來が登場してドラマは動き出す。森山未來が予想外にかっこよくて惚れ直す。藤原季節君の硬質な感じも新鮮。オシャレなムードのドラマだけど、どこか底暗いのがクセになる。ドラマのように世の中も不穏な空気が流れていてなんだか落ち着かない。脚本家はそんなただならない空気をドラマの登場人物に託すのだろう。ずっと順風満帆だったわけではないが、もやもやとした不安が消えない。いつからか私達は見えない何かに怯えるようになったのだろうか。怯えを越えるものは何だろう。正しく怯え、考えることなのかなあ。誰がに頼らず。ただひとりで最善の道を考えよう。

 

フジテレビ「魔法のリノベ」

波留ちゃんが出ているのはだいたい見ている気がする。そこに間宮祥太朗君が出ているので、これは見なくてはならない。「リモラブ」もよかったな。間宮君はどんどんよくなって、今は匂い立つという感じ。そこに波留ちゃんの元カレ、ヤバイ男役に、金子大地。鎌倉殿「頼家」だ。金子君は「腐女子、うっかりゲイに告る」で注目。彼が持つ何ともいえないダークな魅力が、今のちょっとヤバイ役に繋がっているのだろう。何だか妖しい魅力がある。お話はリノベから見える今を描いている。前回は、子どものいない夫婦の寝室のリノベーションの話。「夫婦別寝」なる言葉が一般的なのかと思ったが、面白い話題ではある。家の中のことは外の人には分からない。仲が悪い夫婦もいるし。虐待やらカルトまがいの洗脳まである。世の中はここ2、3年で大きくシフトした。家庭にももっと新しい風が必要なようだだ。風通りの良い暮らし。が求められている。それで失う何かがあったとしても、もう誰も止められないのだ。