阿川弘之「山本五十六(上)」新潮文庫(昭和48年初版)

阿川佐和子のお父さんの本。威厳あふれる怖いお父さんのエピソードを聞いていたので、さぞかし難解なのではと思っていたのだが、全く逆。山本五十六という人間が魅力的なこともあるが、緻密な調査がうまく整理されていて、山本五十六のいた時代が生き生きと蘇る。新潟長岡出身の山本五十六ロンドン軍縮会議に出席するあたりから始まり、時代を遡って、開戦直前までを描いている。男気があって、知的で強くて大胆な山本五十六がいたら、日本はさぞかし違うものになっていただろう。歴史知らずの私にとっては戦前の海軍のイメージはひとつもなかったのだが、今はすっかり海軍びいき。すっかり山本五十六ファンだ。終戦から75年。もう二度と戦争などしない国に生まれて良かったと思っていたが、最近の世の中を見るとそうでもないような気がしてきた。政府の要人たちが嘘にもならない答弁を繰り返したり。声の大きい人ばかりが進めていく世界は、あの当時の陸軍や、頼りない政府を思い起こさせる。いつからこんなに私たちは鈍感になったのだろう。ひとつひとつの小さな嘘やひづみが溜まっていって、自分ではどうしようもない世界になっていくのだろうか。私たちに出来ることはなんだろう。もう手遅れなんだろうか。