夏目漱石「吾輩は猫である」(初出1905年~1906年)

115年前に出た作品。2021年に暮らす人間が何度も噴き出してしまった。時代を経ても生き残る作品。エリート偏屈の夏目漱石が博覧強記な知識と皮肉を存分に出している。近代小説というと、苦悩のイメージがあり、ずっと遠ざけていたが、これならいける。思いのほか長いが、当時から好評で連載がどんどん長くなったのかもしれない。そもそも楽天的に生きることを得意とする人間にとって深刻ぶったお話はあまり得意ではない。怒りも悲しみもひねってから出して欲しいのだ。最後に猫がちゃぽん。亡くなっちゃうのは悲しいが、猫の最後が存外あっけなくていい。人間の最後もあっけなくて、命というものはそういうものだと思わせてくれる。喪失の悲しみは残された者にだけ残り、死んだ方には旅立ちの爽快さがあるといい。死んだらいろんなことから解放されて、思う存分、自由になってほしいね。ゆっくりしてね。