読書

遠藤周作「沈黙」 新潮文庫(初版昭和56年)

重いが面白かった。映画を見ているような感覚で一気に読んでしまった。江戸時代の初め、キリスト教が禁止された頃の話だ。それでもポルトガル人宣教師たちは、はるばる海を渡って日本にやってきた。やっとの思いで上陸した宣教師たち。信徒たちに保護されし…

陰影礼賛 谷崎潤一郎 中公文庫(昭和50年初版)

古い本を読んでいる。だが中身は古びていない。時代を越えて、耳元で谷崎潤一郎が話しているような、ちょっと奇跡的な感覚を持つ。電車の中では特にそう感じる。この本が書かれた昭和の初めは明るい時代ではなかった。今ならLEDライトが隅々まで照らすが…

井上ひさしほか著 文学の蔵編 井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 新潮文庫(平成14年)

井上ひさしが亡くなって8年。すっかり存在すら忘れていた。この本は一関で開いた彼の作文教室の文庫化。井上ひさしにちゃんと教えてもらえば、私もうまくなるかなと思って読み出した。作文教室は原稿用紙の使い方から始まった。知らないこともたくさんあった…

中野孝次 「ブリューゲルへの旅」 河出書房 1980年

昭和55年の文庫本。日本エッセイストクラブ賞を受賞。まだ多感だった頃に読んだはずだが、中身の記憶がない。感動した覚えだけがほんのり残っている。再読で記憶が少し蘇った。10代の私、なかなか頑張っていたのかも。昨年はブリューゲルの「バベルの塔…

広瀬浩二郎「目にみえない世界を歩く 「全盲」のフィールドワーク」平凡社新書(2017)

友だちに目の不自由な人がいるので買ってみた。著者は大阪にある国立民族博物館の学芸員。「触れる」展示に力を入れている。著者によると、そもそも視覚は一瞬のうちに大量の情報を伝えるパワフルな感覚らしい。そんなことに気付きもしない「見常者」は、視…

夏目漱石「草枕」岩波文庫

20歳までほとんど本を読まなかった。黙読が苦手だった。目で追っても頭に入らないのだ。仕方がないから声に出さないで音読する。読む速度はカメだが、今は読書が出来る。高校生の夏休みに読む新潮文庫の100冊系はほとんど読んでいない。夏目漱石も読んだのは…

丸谷才一「夜中の乾杯」文春文庫(1990年)

「まるやさいいち」の名前を知ったのは18歳のときだった。友達になった人が読書家で、好きな作家はと尋ねたら「まるやさいいち」だと言われたのが始まりだった。彼女の部屋は本が一杯並んでいた。ちょっと難しそうな本ばかりだったから、丸谷さんの本も私に…

三木清「人生論ノート」新潮文庫

人生も後半戦。下り坂に入り、三木清の「人生論ノート」を読んだ。昭和16(1941)年の本である。哲学者三木清が人生のいろいろなテーマについて語っている。難解さは少しあるが、短いので読めた。執筆時は治安維持法の時代。苦心して言葉を選んでいると後か…

磯田光一「永井荷風」(講談社学術文庫)

古い書棚から引っ張り出してきた色の変わった文庫本。「永井荷風」の評伝だった。荷風の生涯を、荷風の作品と時代、暮らしを丁寧に拾い出し、緻密に分析した一冊。荷風は裕福な家の長男として生まれ不自由なく育ち、若い時分はアメリカとフランスに渡ってい…

前野ウルド浩太郎 「バッタを倒しにアフリカへ」 光文社新書(2017)

表紙の人は著者だろう。緑の民族衣装にバッタの被りもの、手には虫取り網。バッタを愛して、バッタに食べられたいと願うバッタ博士のお話だ。アフリカで時折、大量発生して深刻な被害をもたらすサバクトビバッタ。その研究に、西アフリカモーリタニアに行っ…

井上靖「孔子」 新潮文庫(1989)

「天平の甍」で気を良くして読み始めた井上靖の最後の作品。今から2500年前の思想家、孔子の話だ。さすがに資料も少なく孔子を主人公にした小説をすることは困難だったのだろう。架空の弟子が孔子を語るという形式で話が進む。この形式が若干くどいなあと思…

谷川俊太郎 大岡信を悼む詩

朝日新聞の折々のうたの大岡信さんが亡くなった。新聞が手近にあった頃は時々読んでいた。短い文章の中に世界を凝縮昇華させる詩人はあこがれだ。大岡信の逝去に、谷川俊太郎が、朝日新聞に追悼の詩を書き下ろした。「本当はヒトの言葉では君を送りたくない…

井上靖「天平の甍」(1957)新潮文庫

亡父の書棚から持ってきた一冊。紙は日焼けしてすでに茶色い。昔の文庫本はこんなに字が小さく、行間も狭かったのかと驚いた。読み始めてすぐに引き込まれた。遣唐使船で唐に渡った留学僧の話である。造船技術も全くなかった遠い上代の頃、今ではあっという…

司馬遼太郎「項羽と劉邦」

司馬遼太郎の作品の中で唯一の外国モノである。上中下の3巻あるが、あっと言う間に読んでしまった。面白い。語り口調は冷徹で痛烈。ジオラマでも俯瞰したような視線だ。登場人物は項羽と劉邦と周りの多くの人々。無能ゆえに登りつめる劉邦と、誰よりも情に…

林真理子の「野心のすすめ」

近所の古本屋さんで見つけて購入。発売された時にも気になっていたが買うには至らず。意地悪で辛辣、でも前向きで力強い。やらなかった後悔はどんどん肥大するとか、恥ずかしい経験も、喉元過ぎてしまえばとか、うんうんと、うなづいてしまう。電車の中でこ…